No.2 講師:仁木崇嗣 『e-Governanceの本質を見極める』 ―IT活用先進国エストニアに事例からー

11月10日(日)14時~16時半まで 26号館 1102会議室で縣所長と招聘研究員7名、ゲスト参加者35名を含めて43名が参加し、第2回目の公開講座を開催しました。


(1) 概 要

講師 仁木崇嗣(招聘研究員 一般社団法人ユースデモクラシー推進機構代表理事)
『e-Governanceの本質を見極める〜IT活用先進国エストニアの事例から〜』
進行 藤倉英世 (ファシリテーター)
司会 泉澤佐江子
14:00 開会アナウンス(進行の案内)
14:05~15:05 仁木プレゼンテーション(60分)
15:05~15:15 休憩(10分)
15:15~15:55 質疑・討議(40分)
15:55~16:00 次回以降の予告ほか(5分)
16:00 閉会アナウンス
16 : 00〜16 : 30 Q&Aの続きと名刺交換等(30分)

(2) 講演内容

≪政策分野:電子政府政策・IT政策≫

 日本における電子政府政策及びIT政策について考えるため、IT活用先進国とされるエストニアの事例を概観し日本の現状との対比を行った上で、講師の考える未来像の一端を提起する講義を行った。講義の内容は以下の通り。
① エストニア共和国の概要
② エストニアで実装されているe-Governanceの事例紹介
③ 日本の現状と課題
④ 少し先の未来像(私見)


(3) 質疑・討議

講演後、以下3つの論点を示した上で、ファシリテーターを交えて討議が行われた。

論点1:日本がe-Governanceを充実させていくための課題や重要な論点とは?

① 複雑な税制や縦割りの官僚主義は利権構造によって維持されているが、それを変えようとするマインドが不在であることが課題ではないか。
② 源泉徴収をやめて全員が確定申告することで納税者意識を高め、税の分配といった政治的関心も向上させることになる。エストニアでは確定申告が3分で終わる。日本では技術が無い時代の最適解の仕組みが完成され、未だにさほど改善されずに運用されているわけだが、既にある技術を用いた新たな仕組みを追求すべきではないか。
③ 「アトム」や「さるぼぼコイン」に代表されるような地域通貨を発行するのはどうか。自治体職員の給与の一部を地域通貨で支払うことにより地域経済への還流に寄与すると考えられる。
④ ハッキングや情報漏洩などのシステム的な範囲を対象とする「セキュリティ」、データの所有権やアクセス権を対象とする「プライバシー」、運用者や利用者の意識を対象とする「リテラシー」をそれぞれ高めていかなくてはならないのではないか。

論点2:e-Governanceが充実した場合、身近な地域にどのような可能性、新たな価値が生まれるのか?
① ログを取りデータとして公開することで透明性が高まり、データに基づいた政策形成の実現や資産であるデータを活用することで新しい価値が生まれるのではないか。
② e-Healthなどは予算の効率的運用に寄与する。実験的に小規模な自治体からモデルケースをつくるべきではないか。明治時代から積み重なった古い法律体系を払拭する必要がある。
③ 遠隔医療や遠隔服薬を進めるためにもデータの管理が必要であり、総合的な電子化が必要になってくる。電子化は地方部の医師の偏在問題の解決に寄与するのではないか。
④ 国民健康保険の支払いは現在レセプトを基に算出しているが、不正のチェックに多大な労力を用いており、これを是正することになる上、医療データを基に効果的な予防医療を実現することができ、結果として財政健全化に寄与することになるのではないか。
⑤ マイナンバーが特定個人情報とされたことで管理コストが莫大に高まり現場では可用性が著しく低下しており、問題ではないか。

論点3:e-Governanceは本当に必要か?
① 今のガバナンスの延長線上にある「e-Governance」と、既存の制度やシステムをゼロベースに考えた「e-Governance」のあり方は異なるのではないか。
②現実の地理的な統治構造から切り離された共通の価値観に基づく限定されたコミュニティ(「サイバーな地域」)では、公共性を保ちながら自由度も拡張された理想的な統治体制が実現するのではないか。一方で、それは社会的分断に近似するため絶えず探求を行い、相互理解を進める不断の努力が必要と考えられる。

(4) 講座を終えて(講師所感)

討議において、より広範な視点からの意見や、現場主義的な実態に即した意見など、いずれも有意義であり講師にとっても非常に学びのあるものであった。提起された様々な課題のほとんどが、突き詰めていけば民主主義的問題、とりわけe-Governanceを充実させていく政治的意思をどのように形成していくか、という論点に集約されたように感じられた。この点において、明快な解決策を導くことはできなかったが、小規模自治体において目に見える事例を示すことが比較的実現可能な一つの方法であるように思われた。また、論点3について、ファシリテーターからの問いかけに対して、参加者全員が「e-Governanceは必要である」という意思を示したことについて、納得感と安堵感を得つつも、現在の統治システムをそのままに手続き面だけを電子化し、効率化することだけが目的にならないよう本来の目的は何かということを常に省みながら継続的に探求し合意形成をしていく必要性を感じた。