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【地域主権研究センター】「アメリカにおける市民参加の手法に関する調査」について(中間報告)

<調査の趣旨>

 

 近年日本では政治的混乱が続いており、その傾向は民主党への政権交代からより顕著になってきた上に、昨年3月11日の東日本大震災以降は中央と地方の関係を含めて政府の統治機構自体が揺らいでいる状況にあります。

 元々ある多額の財政赤字に加えて、大震災後の復興には莫大な財源を必要とし、そのつけは次世代に至る重い国民負担となることは必須ですが、大方の国民には長い間「お上」が何とかしてくれると考える依存体質があり、政治不信の中無力感と無関心に苛まれながらも観客席で不平不満を漏らすだけの国民性は中々変わっておりません。

 現在推進されている地域主権は、住民主権を意味し、その成功のためには、

住民にこれまでとは大きく異なる政治参加が求められます。しかし、現実には

現状の不安定な政治・行政状況を放置できないが、どんな活動・意思表示がありうるかの参加手法が分からないという人々が、女性を中心に相当数存在するように思います。

そこで、政治的行動を含む市民参加について、具体的事例をデモクラシーの先

進諸国・都市から学び、何をどういう手法で実現してきたかのオプションを「事例集」による形態で提示して、この転換期に「市民の自覚」を促し、新しいリーダーを育成していく一助になればと考えました。

 今回はアメリカの大学院における日本人の研究者または、博士課程の留学生に調査を依頼したものについて「アメリカでは何が市民の政治参加を活発にしているか」を中心に中間のまとめを報告いたします。

 この中で、アメリカ人の市民参加、政治参加が活発な背景には、幼少期からの教育の違いが大きいだろうという想定のもとに「学校における市民教育(civic education)」についても併せて調査いたしました。

 

 なお、当初は調査のテーマにおいて、市民がオーナーシップを持ち政治の意思決定プロセスに直接意思の反映をする「政治参加」を予定しておりましたが、

対象領域を、市民が行政の意思決定の中に関与する「市民参加」まで広げて調査をしたことを申し添えます。

 

2012年8月1日

招聘研究員 羽田智恵子

 

<アメリカの市民参加:日本とここが違う=調査協力者の観察から>

 

※「調査rep」は調査レポートの出典を示すもので、資料として添付する。

 

1.政治家へのアクセスが身近で容易

(1)マサチュウセッツ州・ケープコッドで、再生可能エネルギー(洋上風力発電)が島の外観と生態系を損なうとして縮小運動が起きた際に、クリーンエネルギーの促進をめざす草の根の市民運動側では、情報拡散を重点的に行った。

①政治家に対して手紙、電子メール、ファックス等で働きかけた。

②毎月のニュースレターに、特定の政治家や団体の名前・住所・電子メールアドレスなどを記載し、メンバーにその政治家についてアクセスするように促した。

調査rep1:「再生可能エネルギー⦅風力発電⦆に対する市民運動」

 

(2)オレゴン州のポートランド市で、小規模事業のゾーニング変更手数料を引き下げるように行政機関に求めた運動で、地元の新聞記者が記事を書くと、共感した市民は市役所や市議会議員に対して、投書や電話などで働きかけた。

調査rep2:「小規模事業者の落胆から発した市の都市計画手数料値下げ」

 

(3)マサチューセッツ州で同性婚を法的に認めさせようと、民間非営利組織GLADを通して裁判を起こしたが、GLADは情報をホームページで公開し、メディアへの情報提供をするとともに、個々の議員に向けて手紙や電子メールを通してロビー活動も行っている。

調査rep3:「同性婚の権利における市民参加」

 

2.働きかけのチャンネルが豊富

(1)アラバマ州のバーミングハム市は、市民参加のプログラムの中で、プロジェクトへの資金提供や地域リーダーの育成などと併せて、市長とのコミュニケーションチャンネルを設置し、市民に対する情報公開を徹底させている。

①   市民は毎月、市政に対する情報のパッケージを受け取り、会議の予定を知らされる。それにより市民は決定に意見を反映できる。

調査rep4:「近隣住民組織のネットワーク化と住民参加の促進」

 

(2)学校において生徒の保護者が、その専門性を生かして学校側(教育委員会)に助言をする。アメリカではPTAの会合が夜に開催されるのが普通なので、母親以外に父親が参加しやすいことも背景にある。

調査rep5:「コンピュータ専門家による学校区ネットセキュリティの改善」

 

(3)新聞記者の調査報道が市役所当局や市議会議員を動かしていく。

調査rep2:「小規模事業者の落胆から発した市の都市計画手数料値下げ」

 

(4)カリフォルニア州のサクラメント市には120の近隣自治組織があるが、

年に1度、市民の活動家や代表者、行政、民間企業などが一堂に会して住民主導の活動の経緯やアイディアを学ぶサミットを開催する。

この中には大学や警察、消防も参加しブースを開いてプレゼンや意見交換をする。

調査rep6:「サクラメント市のネイバーフッド・サミット」

 

(5)オレゴン州でK-12教育システム(義務教育)の改革を進める財団は市民を結束させるプロジェクトを立ち上げたが、市民は教育を向上させるアイディアの提供、アンケート調査への参加、新聞コラムへの投稿、地方イベントの参加と講演、議員への意見書提出などにより、様々な意見の表明や行動ができる。

調査rep7:「K-12教育システムにおける教育改革」

 

3.住民による自治意識の存在

(1)住民は行政ではなく、自ら地域の課題を解決するために議論をし、行政その他の利害関係者と調整する。日本の町内会や自治会に相当する「ネイバーフッド」では、市行政に対する政策提案、政策助言、地区計画の策定、行政とのコミュニュケーションを行う。

調査rep6:「サクラメント市のネイバーフッド・サミット」

 

(2)インディアナ州マディソン市の民間非営利団体は、歴史的な街並み保存・復元・教育のために市内の16の建物を所有して運営・維持をして観光プログラムを提供する他、歴史的な建物を持つ人々に対して、維持の技術指導や税金の証明書発行、相談の受付など積極的に活動している。

調査rep8:「市民参加による歴史的町並み保存の取組」

 

4.地域の財団や教会・大学によるサポート

(1)マイノリティーに対するホスピスケアのアクセスを充実するために、地域の財団や聖職者が仲介役をして、ボランティアとして運営に携わった。

調査rep9:「マイノリティーに対するホスピスケアサービスへのアクセスの充実」

 

(2)オレゴン・ソリューションズ(OS)はオレゴン州ポートランド市にあるポートランド州立大学に拠点をおく中立的第三者組織で、行政、企業、NPO/NGO、環境団体、一般市民との参加・協働により公共性の高い地域問題の解決を支援している。エネルギー開発、福祉政策、住宅開発、空港開発、森林保護、洪水対策、土地利用など60以上のプロジェクトを支援してきた。

調査rep10:「オレゴン・ソリュージョンズによるコラボレーション推進手法」

 

5.土台に学校での市民教育

(1)マサチューセッツ州においては、小学校からの「労働と貢献」のコア学習の中で、個人的・社会的・市民的責任を学び、コミュニティ、州、国家における個人の権利や責任、役割を理解させる。その上で、21世紀の積極的な市民として知識やスキルを持たせるために、最少学年から問題解決や意思決定のテーマを与えている。

 

(2)アメリカの市民が政治参加や市民参加に積極的である背景には、社会問題に関する取り組みや運動が社会全体で可視化されていることが大きい。

⇒(1)(2)ともに調査rep11:「マサチューセッツ州の市民教育」

 

(3)ノースカロライナ州では、幼稚園から小学校5年生までを対象に、グローバル・コミュニティで貢献できるリーダーを育成することを目的として「リーダーシップと国際教育」のプログラムが用意されている。

内容が具体的で、模擬選挙や海外の学生との交流・対話もあるが、特に市長との交流が重視され、市議会で議論されている交通やゴミ処理などについて、生徒が議会を公聴し、自主研究するなど子供の頃から実際の政治を学んでいる。

 

(4)これらの結果、政治行動について投票だけではなく、選挙キャンペーン、市民団体への参加、請願書への署名、抗議運動への参加、地域活動などにプラス効果をもたらしている。

⇒(3)(4)ともに調査rep12:「ノースカロライナ州の市民教育」

 

<中間報告のむすびとして>

 

 これまでに現地調査を依頼したレポートが市民教育を含め12通届いた。

 共通項として浮かび上がってくることは、アメリカは国家の繁栄と安全保障のために、民主主義の装置をブラッシュアップして、できるだけ国民の自治意識を高め、市民参加や政治参加を可視化して、英知の結集を図ることが最良の手段であると考えているのではないだろうかということである。

 その点日本はさしたる市民教育もなく、地域主権も進展させず、一部の権力機構が集中的にコントロールし続けることをもって最良の手段であると考えているのであれば、先行き国家の繁栄に陰りが出るのは必然かもしれない。

 

 特に、アメリカにおいて幼稚園や小学校から始まるシチズンシップ教育の影響は、街中でプラカードを持って行進することも、公園にテントを張って泊まり込むことも「市民として自然なこと」の意識を与え、力みがないし、政治家に直接手紙を書き、電子メールを入れることにも抵抗が薄いようだ。

 

 昨今、日本でも原子力発電所の再開を巡り、安保闘争以来50年ぶりのデモが総理官邸前や代々木公園などで起きている。過去に較べると大半は組織動員されない一般市民の集合体であるが、現実に2回参加してみて安保闘争以来のブランクがある分、政治的行動による効果的なアピール方法を含めてノウハウが蓄積されてこなかったことを感じたものである。
 すなわちそれは、デモといっても国会や総理官邸を遠巻きにして道路に行列をつくる範囲内に制約を受け、混乱が生じないことは望ましいが、政治家に訴える効果などの点から、いわば「デモをする権利」が過去よりも薄められ、行動の手法が選択肢として極めて限定的な印象を受けた。
 従って街頭行進もいいが、それしか思いつかないということではなく、政治を変える効果的なアピールの方法がさまざまあり得ることを皆が理解し、それを効果的に使うことで、政治や社会を変えられるといった思考に人々が変わっていくと、住民主権がより身近なものとして現実化するのではないだろうか。

 

 以前に、NHKの番組でスウェーデンのシチズンシップ教育を特集していたが、「社会に役立つアイディア」を政府に提案できる能力育成を目的とし、どうしたら若い世代が社会を動かせられるのか、つまりバトンを次世代に移し替えていく実践的教育に取り組んでいる。その際に、政治や政策を動かす能力を、スウェーデンの若者の65%が持つとされる一方、日本を対比してみると、

24%という数字が示されており、その差が示す将来には不安要素がある。

 

 日本は政治を含めて社会全般に中高年が「俺の眼の黒いうちは俺が実権をもつ」という意識や風潮が残っており、スウェーデンのように若い世代にバトンを渡す実践教育を考えないと、市民参加や政治的行動以前に、民主主義の装置や国民の自治意識を益々劣化させていくのではという危惧を感じるのは筆者ばかりではないだろう。