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『シチズンシップ教育の中学高校への導入と事例調査』報告(その1)

招聘研究員 羽田智恵子

「中学生の表現力を育成する授業のつくり方」の実践研究

 

地域主権研究センターでは、2012年以来、研究目標の一つ、「地域住民の自己決定・自己責任のあり方」を探るために、『アメリカにおける政治参加・市民参加の手法に関する調査』を続けている。
いま、2016年の参議院選挙から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、同時に1969年から制限されてきた高校生の政治活動が校外で認められるなど、大きな変化が目前にある。そして、教育現場では新しいプログラムや対応が迫られている。

 

これまでの研究では、「アメリカにおける政治参加・市民参加は日本とどこが違うのか」を模索し、その中で、重要な違いのひとつが「学校でのシチズンシップ教育」にあることを明らかにした。おりしも18歳選挙権をきっかけに、国内の中学・高校ではシチズンシップ教育への模索が始まろうとしている。そこで、今年度は、このシチズンシップ教育に注目し、また、研究方法として新たな課題に直面している学校との協働によることとして、現場での授業づくりを通じて新しい実践的手法を探ることとした。

 

シチズンシップ教育に関し、当センターでは以下のように認識している。

 

(1) シチズンシップ教育は、「主権者教育」そのものである。それは、
「社会の構成員としての「市民」(citizen)が備えるべき「市民性」(citizenship)
を育成するために行われる教育であり、集団への帰属意識、権利の享受や責任・義務の履行、公的な事柄への関心や関与などを開発し、社会参画に必要な知識、技能、価値観や傾向を習得させる教育」※と定義される。
※今野喜清・新井郁男・児島邦宏(編者代表)『学校教育辞典』教育出版2003
pp.367 -368
これは、市民が市民であるために必要とされる素養やスキル⦅シチズンリテラシー⦆の習得をもたらすものと理解できる。

 

(2) 我々がいま改めてシチズンシップ教育に注目する理由とりわけ学校現場がその中心となるべきと考える背景は以下にある。
① 終身雇用と年功序列の時代がもたらした安定は、価値観の多様化、政治
に対する無関心、年代を超えた社会的知識(政治・社会システムの理解)の欠如、公共生活における規範意識の低下をもたらした。
② リアルな人間関係の減少、コミュニティ機能の劣化、家族構成の少数化は、個の「社会化」(名実ともに社会のメンバーとなる)への意識を形骸化させた。
③ 少子高齢化社会・ポスト福祉国家社会の到来は、国や地方の財政力を低下させ、暮らしの環境条件や老後の幅広いケアの保障への期待が叶えられないという心理をもたらしている。
④ こうした中で、投票率の低下とりわけ若者の選挙離れが進んでいる。全年齢層にわたり、政治参加の有効性の感覚が低下し続けている。
⑤ 家庭においては、一般に上記の諸点に関わる親の教育力の低下が進んでいる。さらに、その世帯間格差が固定化しつつある。
⑥ 全体的に学校教育が社会のニーズとその変化に応えられていないとの指摘があるが、そもそも学校教育だけで自立した社会人を育てることは困難ではないかという論点は別として、学校教育にその有効性が期待される主権者教育に関しては、政治や選挙の仕組みを教えることが中心で、その意義や重要性さらにはその実践に求められる判断力を育成するというところにまで及ぶことができなかった。それには、政治的中立性の要求を「非政治性の要求」と誤解してきたことも原因となっている。
⑦ 学校は知識や体験を体系的に学習する場として発展し、またこれに適している。しかし、現代社会が求める未来の人材に求める能力はこれを超えており、その学習も学校に期待されている。主権者教育もその一つである。これについては、外部の人材や学校外の場を通じて必要な知識やスキル、主体的な学びや社会参画の機会を用意することが不可欠だが、これらは不十分にしか実現されてこなかった。

 

(3)このような状況は、ひとり我が国に限られるものではない。1990年代の英国の状況は、『若者の疎外―youth alienation』という表現に象徴されるが、今の日本の状況と酷似して、政治的無関心、低投票率、学校の無断欠席、暴力・犯罪行為などが蔓延し、若者が抱く政治や社会に対する疎外感、コミュニティの劣化、市民参加の機会減少、さらには、移民の
増加、多文化社会化などとこれに伴う共通の価値観の欠如などが問題化した。
それに対応して、シチズンシップ教育が前面に打ち出された。
1997年 トニー・ブレア首相(労働党)が「能動的な市民への育成」へ
1998年 英国教育省諮問委員会からB.Crick report 発表(3つの課題)
① 社会的倫理的責任
② コミュニティとの関わり、
③ ポリティカルリテラシー
2002年 シチズンシップ教育を中等教育必修(7~11学年)に
(社会参加、政治参加のための知識と技能を育むカリキュラム)

その中で、課題として、専門教員の不足、教員の知識不足、不十分な教員養成、教材の不足、評価方法の未整備などが横たわっていたとされる。

 

今回の研究は、シチズンシップ教育の入り口に立つ教育現場で、イギリスの教訓をどう生かすことができるかを問うものでもある。

 

今回の取組みにおいては、シチズンシップ教育の糸口は多面的に考えうる中で、「投票率向上」に短絡的に走らず、その前提として「能動的な市民」つまり「問題発見と意見の表明、自ら解決に取り組む資質と能力をもつ若者」を育てることが重要であるとの考えのもと、複数人で新しい問題を解決する能力の基本になるコミュニケーション能力を育成する観点から、その手法としての『表現力』向上の授業をどうつくるかの課題に取り組むこととしたところである。

具体的には、千葉市立稲毛高等学校附属中学校 中学2年生80名(男女)を対象に、劇団ひまわりにワークショップの演出企画と現場での指導を依頼した。その経過と成果は、報告書「中学生の表現力を育成する授業のつくり方」(PDFファイルに所収)に示すとおりである。

 

今回の取組みはパッケージ型の講座であるが、これを他校にも水平展開し、ノウハウを蓄積しながらワークショップを指導できるコーチの育成や教材の制作に展開することが次の課題となる。

 

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