No.6 講師:畠田千鶴 『地方創生とグローカル成長戦略の再考』 ―地域ブランドの可能性と課題―

2020年10月31日(土)14:00~16:00まで、オンライン開催。
縣所長と招聘研究員9名、ゲスト参加者29名を含めて38名が参加して、第6回目の公開講座を開催しました。


(1)概 要

講師 畠田千鶴(招聘研究員 /一般財団法人 地域活性化センター広報室長)
「地方創生とグローカル成長戦略の再考」
~地域ブランドの可能性と課題~
進行 藤倉英世 (ファシリテーター)
司会 泉澤佐江子
14:00~ 開会アナウンス(進行の案内、zoomの説明)
14:10〜15:00 畠田プレゼンテーション(50分)
15:00~ 第2部の論点の提示。質問事項のお願い
*チャットで受付。記載方法など
15:05〜15:20 休憩(質問受付)
*質問事項の整理
15:20~ 第2部開始、ファシリテーター紹介
15:20~15:55 質疑応答(35分)
15:55~16:00 終了アナウンス

(2) 講演内容(概要)

 2015年度から始まった地方創生政策では、東京一極集中の是正、人口減少の克服、多様な人材の確保、地域の就業機会の創出を目的に推進されている。東京五輪を前に、訪日外国人の拡大・地方への誘客、地元産品の海外への販路拡大などインバウンド事業は効果を上げつつあったが、新型コロナウイルスの感染拡大により一気に後退し、日本経済は危機的状況となっている。このような中、地方移住、地域資源やブランドが再評価されつつある。
『地域内外の多様なアクターとの連携により、地方のイノベーション創出が可能であるか』について講義した。

① 地方創生政策の現状(政策目的、成果について)
「地方」という概念について説明後、まち・ひと・しごと創生法の成立から現状について解説した。第1期(2015~2019年度)では、東京一極集中の是正、人口減少の克服には至らなかったが、移住者による地方での起業などの新たなムーブメントが全国各地で生まれつつあり、地域経済の活性化に期待を持つことができる。
第2期(2020~2024年度)に入る直前に、新型コロナウイルスが感染拡大し、事業の変更を余儀なくされた。2期の積極目標は、新しい生活様式(感染症対策)、DX、SDGs、一億総活躍社会である。

② ビッグデータでみるコロナの地域経済への影響について
地域経済分析システム(内閣府・経済産業省)と訪日外国人の推移(観光庁)のデータを用いて2020年1月~9月までの対前年度比のグラフを作成し、内容を解説した。
人口移動は、緊急事態宣言の解除以降、徐々に回復しているが100%には至っていない。その要因の一つとして、在宅勤務など働き方の変化が推測される。飲食店の検索回数、宿泊者数は回復基調にあり、今後、GoToトラベル、GoToイートキャンペーンの効果を注視していく必要がある。イベントチケットの販売数は、-90%以下で推移している。10月から開始されるGoToイベントキャンペーンによる好転が期待される。生活必需品を販売するスーパーの売り上げ指数「POSレジの集計でみる売上高動向」は、緊急事態宣言中もほとんど変化がなかった。

③ グローカル成長戦略の取り組み
◆経済産業省が発表した「グローカル成長戦略委員会2019年度」の解説をした。
◆ドイツの中小企業支援事業「隠れたチャンピオン」を事例として紹介し、日本の現状と比較した。

④ 地域ブランドとは何か?
◆地域ブランドの定義を地域活性化センター報告書のデータを用いて解説した。
◆各省庁の事業(地域的(GI)保護制度、世界遺産)等について紹介した。
◆毎年、民間のブランド総合研究所が発表する「魅力度ランキング」について解説後、 同研究所が行っている、「都道府県SDGs調査 幸福度ランキング」を用いて、2つの調査ランキングのデータを抽出し、作表して比較をした。

⑤ 先進地の事例紹介
◆北海道東川町 写真の町宣言、日本初の町立日本語学校、コロナ対策
◆徳島県上勝町 ごみゼロ政策への共感から生まれた民間のイノベーション

⑥ 地域イノベーションの課題と展望
◆地域ブランドの課題解決に向けて提案をした。
◆イノベーションを成功させるための3つのT(Technology, Talent, Tolerance )を提案した。
◆今後の展望について7つの提言をした。
・アフターコロナは過去の延長ではいけない
・ 世界的な自然災害対策(農産物の被害や気候変動による不作の対策等地域経済)
・ SDGsの導入を受け入れる(ローカルSDGs)
・ エネルギー確保(再生可能エネルギー)
・ 先進的企業と共同でイノベーション
・ フィナンシャルの確保(ESG投資に注目)
・ デジタルシフト

⑦ 地域活性化センターの事業説明と活用方法
地域活性化の研究や政策立案を考えている参加者に活用していただくための情報を提供した。
地域活性化センター URL https://www.jcrd.jp/

<休憩>

(3)質疑応答・討議

質疑応答に加えて、「地方創生・地域ブランディングに、地域内外の多様なアクターが積極的に参加していくための条件」をテーマにゲスト参加者と研究員で議論を行った。

《質問1》
SDGsは、多様なアクター同士の共通言語になると思うが、地方におけるSDGs導入は、現在どのような状況なのか?
《回答1》
・現在、SDGsの目標を設定し取り組んでいるのは、予定している自治体が約80%と想定されており、内閣府は「地方創生SDGs」Webサイトを開設して、全国の先進事例を学べる機会を作っている。また、総合計画に組み込む自治体もある。(講師、ファシリテーター)
・最近の報道の傾向として、地方創生についてはトーンダウンしている。取り上げられる内容は、GOTOトラベルや疲弊した地域の実情が多い。(研究員:中央紙記者)

《質問2》
私達の身近な観光であるとか、飲食など、「財務に余裕の無い地域の事業者」は、昨今の新型コロナの情勢の中、どの様に復興をめざしたら良いのだろう?
《回答2》
・クラウドファンディング活用や民間資金の調達を検討してはどうか。また、外からの資金だけではなくマイクロツーリズム、小規模農業などの域内消費に取り組んではどうだろうか?(講師、ファシリテーター)
・墨田区において、インバウンドの減少による経済的ダメージは大きい。マイクロツーリズムやMICEで減益分をカバーするのは難しい。(参加者:墨田区役所職員)
・コロナ対策として、事業者は、国からの助成金や実質無利子融資など金銭的な支援を受けることができ、今のところ財務的には持ちこたえている。政府からの大盤振る舞いが続いているうちは良いが、打ち切られた時は廃業に追い込まれるリスクがある。また、大型歳出をした国の今後の借金が課題である。(研究員:金融・経済専門家)

《質問3》
ブランドを維持するための人材育成などがうまくいく条件や成功事例をもっと知りたい。移住者がどのように生計を立てているのか? 地域おこし協力隊の評価は?
《回答3》
・最近では、IT分野などで専門人材を任期付きで雇用する自治体が出てきている。副業を認める企業も増加してきているので、外部人材は、今後活用できるのではないか?(研究員:IT専門家)
・地域おこし協力隊には、目的を持って起業し地域に定着する隊員もいるが、活躍できていない隊員もいる。自治体の受入体制が整っているかどうかが課題である。(講師)

《質問4》
地域における3つのTのTolerance(寛容)について、具体的な例を聞きたい。
《回答4》
・合併自治体で、新たに事業を立ち上げる際に激しく対立することがある。また、子ども食堂の運営を巡って、大人同士が対立することがある、このような時に第三者が入るなどして、双方から寛容さを引き出すことは問題を解決し、事業の円滑化に効果を上げることがある。(講師)

(4)講義を終えて(講師所感)

 全国各地から多くの皆様に参加いただきました。自治体、研究機関、大学、メディア金融機関、IT企業等の幅広い分野で仕事に従事されている方々です。地域活性化の現場で活躍されている方から、最近地方(地域)に関心を持ち始めた方まで幅広い参加がありました。この講義をきっかけに、参加者の皆様がご自身の住む町や地方に理解を深めていただく機会となれば幸いに思います。
時間の都合で、詳しく説明できなかったが、3つのTの「寛容(Tolerance)」について、質疑応答や講義終了後も、関心があるとのご意見をいただきました。地域の分断を防ぎ、生活を豊かにするワードであると、あらためて感じました。ご参加された皆様と「寛容」についてもう少し議論を深めてみたいと思いました。