公共政策研究所 会合記録 ≪23年度公開講座≫ 第3回

共催:大学公認サークル 『政友会』
2024年1月18日(木)18:00~20:30まで 小野記念講堂にて開催。
学生が約70名、一般社会人を含め合計90名が参加した。

テーマ 『紛争地取材の意義』―シリアでの拘束と自己責任論―

企画趣旨

本講座ではイラクやアフガニスタン、シリアなどの紛争地で取材を重ねてきた安田純平氏を講師として招いた。シリアでの3年半はどんな拘束状況だったのか。生命に関わるリスクを背負ってなぜ危険な取材を続けてきたのか。
安田氏がシリアでの拘束から解放され、日本に帰国してから今年で5年が経過した。しかし、国は安田氏のパスポートの発給を停止し、出国自体が禁止されている。本来、個人には「移動の自由」が認められているはずであり、このパスポート発給停止処分について行政の裁量権の濫用を疑う声も存在する。また『自己責任』とは何か。政府の責任とどう関わるのか。
戦地ジャーナリストに対する、国の行政や公共政策の在り方について思索する場として本講座を開催した。

講 師:安田純平(フリージャーナリスト)

1974年生まれ。一橋大学卒。信濃毎日新聞記者を経てフリー。
イラク、シリア、アフガニスタンなど取材。12年、シリア内戦取材。
15年、シリアで武装勢力に拘束され、18年、40カ月ぶりに解放された。

タイムテーブル

18:00~ 開会
18:10~ 動画放映(25分)
TBS「報道特集」で放送された映像
18:35~ 講師講演
19:50~ 質疑応答
20:30~ 閉会

(1)映像放映 (TBS「報道特集」より)

講演の前に、安田氏がシリア現地で取材し、撮影した映像を放映した。
現地で戦闘に参加する兵士の素顔や、空爆で破壊された直後の建物から怪我を負った住民を運び出す一部始終など、リアルな戦地の様子が映し出されていた。
戦地では、医師の命が狙われやすいこともあって医師が不足しており、国境を越えて負傷者を運ばなくてはならない場合もあるという。

(2)講演(現地取材の意義)

講演ではシリア情勢などを中心とした国際情勢、テロリストという言葉の危険性、日本人が現地を取材することの意義などについて話を聞いた。
紛争が起こっている現地の人々はあくまでも紛争の当事者で、当事者は当事者の都合で発信することから、第三者が第三者の立場で事実を確認して発信することが重要だと説いた。

(3)質疑応答

① 拘束された初期の頃は、トイレが1日2回に制限されるなど不自由を強いられ、自分のやりたいことができない状態であったという。「もしかしたら帰国出来ないのではないか」という考えもよぎり、当初は過去を振り返ってばかりいたが、将来やりたいことを考えるようにしたことで気持ちを切り替えられたそうだ。

② 人質事件の「責任」の所在については、紛争地に行った本人の「自己責任」と、政府がどのように対応するかを選択する「政府の責任」の2つが本来同時に存在することを指摘。当時広まった「自己責任論」は、政府の対応を巡る選択の責任も本人の責任として押しつけてしまうものであった。「自己責任論」は「政府のあり方」を問う論であるという。



③ 最後には、「自己責任論」は自由を奪ってしまうもので、好きなことややりたいことをやれる寛容な社会であることが必要だと語った。

④ パスポートの発給停止処分を巡っては、安田氏は国を相手に訴訟を起こしていた。東京地裁は本講座から一週間後の本年1月25日に、発給拒否は裁量権の範囲を逸脱・乱用し、違法であるとして取り消しを命じる判決を下した。一方で、裁判所はトルコと周辺国への渡航の制約については合理性を認めた。国が個人の移動に制限を加えることは認められるのかどうか。戦地ジャーナリストに対する政府の在り方については、まだ議論の余地が多くありそうだ。

最後に、本講座開催にあたりご協力を賜りました公共政策研究所の羽田智惠子様には心より感謝申し上げます。
(早稲田大学政友会 山岸憲伸)