No.7 講師:渡瀬裕哉 『アメリカの民主主義を支えるインフラを学ぶ』 ―社会の雰囲気を変えるための方法―
2021年2月20日(土)14:00~16:00まで、オンライン開催。
招聘研究員9名、ゲスト参加36名の合計45名が参加して満席となり、第7回目の公開講座を開催しました。
≪放映スタジオ WASEDA NEO ≫
(1)概 要
講師 | 渡瀬裕哉(招聘研究員 /一般財団法人 地域活性化センター広報室長) パシフィック・アライアンス総研 代表取締役所長 早稲田大学公共政策研究所 招聘研究員 |
テーマ | 「アメリカの民主主義を支えるインフラを学ぶ 〜社会の雰囲気を変えるための方法〜 |
司 会 | 畠田千鶴 |
14:00~ | 開会アナウンス(進行の案内) |
14:10〜15:00 | 渡瀬プレゼンテーション(50分) |
15:00~ | 休憩 |
15:15〜15:55 | 質疑応答(40分) |
15:55~16:00 | 第2部開始、次回の案内 写真撮影 終了アナウンス |
(2)講演内容(概要)
民主主義は投票行為を行うだけでは維持・発展させていくことはできない。そのため、民主主義では最終的に行われる「投票行為」の質を向上させていくために、様々な仕組みが必要となってくる。それらの仕組み、特に民主主義を支えるソフトインフラについて、米国の共和党保守派が実践している試みについて紹介した。具体的には下記の通り。
(1)民意統合機能(CPAC、Freedom Fest)
保守派の年次総会であるCPAC(Conservative Political Action Conference)やリバタリアンの年次総会であるFreedom Festなど、保守派・リバタリアン全体の方針に多大な影響を与える。CPAC主催のACUは全連邦議員の投票傾向の保守度をレーティング。近年のトランプ化が激しくレーガン保守派やリバタリアンと衝突ぎみ。
(2)情報交換・意思決定機能(ATR: Americans for Tax Reform)
レーガン大統領の付託を受けたグローバー・ノーキスト氏が設立したAmericans for Tax Reformによるワシントンで開催される原則非公開の保守派草の根団体の週次会議「水曜会 Wednesday Meeting」(全米各州で展開)を通じて、保守派草の根団体のタイムリーな情報交換。(同団体自体は「納税者保護誓約書」を議員に結ばせる活動を展開)
(3)訓練・人材紹介機能(LI:The Leadership Institute)
全米共和党全国委員会で要職を務めたモートン・ブラックウェル氏が設立した全米保守派の草の根運動員の訓練・リクルート機関として創設。保守派の議員事務所及び団体への人材紹介機能も。
(4)政策立案機能(Think Tank)
ヘリテージ財団をはじめとした大小無数のシンクタンクが存在している。各シンクタンクのイデオロギー上の特徴から強みがあり、それらの違いを理解して分類することが重要。
(5)資金提供機能(Foundation)
コーク財団・マーサー財団などの大口スポンサーから全米各地の小口献金者まで幅広く存在している。また、政治資金に関する情報公開・情報分析のための組織もあり、政治的意思決定の透明を高める取り組みを行っている。
(6)メディア機能(Media)
Fox News、Washington Times、Washington Examiner、The National Reviewなどが保守系メディアとして活躍。ラジオ番組やネット番組なども無数に存在。
(7)保守派の各種グラスルーツ
全米ライフル協会、メディア監視団体、司法監視団体、左派資金源監視団体、宗教団体(福音派、ヘルスケア反対)、エネルギー規制廃止団体、反労働組合運動、ネット中立性廃止団体、発明家協会、学生団体、ティー・パーティー、リバタリアン団体、イスラム教徒団体・・・
<休憩>
<米国の政治イベントの事例:FREEPAC2012風景>
<議員の投票記録に基づくレーティング表:ACU Rating American Conservative Unionから引用>
<選挙の訓練施設:The Leadership Institute Google Earthから引用>
<シンクタンク:The Heritage Foundationから引用>
(3)質疑応答・討議
発表内容に関する質疑応答は活発に行われたが、個々のプレゼン内容に関する質疑はもとより、その日本への移植可能性を指摘した下記の質疑に関して紹介する。
<質問>
米国と同様の仕組みを作るのに日本では何年かかるのか。米国の経緯についてお教え願いたい。
<回答>
米国では1960年の大統領選挙でゴールドウォーターが敗北した前後から草の根民主主義による保守派のソフトインフラづくりがスタートした。政治理念をまとめる雑誌媒体、選挙運動員を組織する訓練機関、そしてシンクタンクの順番でソフトインフラ整備が行われた。この過程には数十年に及びものであった。
日本に同様の仕組みを移植する場合、米国と同じように数十年の期間を有するものとは思わない。既に米国の具体的な事例が存在していること、情報テクノロジーなどのコミュニケーション技術の発達は、インフラ整備の時間を大幅に短縮することを可能とするだろう。
(4)講義を終えて(講師所感)
多くの皆様にご参加いただけましたことに感謝いたします。米国の民主主義は現在進行形で常に進化しており、私の発表は既に過去に完成した仕組みについての紹介であるに過ぎません。今回紹介したソフトインフラも常に改良されており、また新しいコンセプトや手法が実装され続けている状態があります。
我が国も民主主義を機能させて、投票行為の質を向上させることが重要です。他国に存在する民主主義の機能を向上させるインフラについて研究・移植することで、日本の民主主義の価値と質を向上させる一助となる研究を継続してまいります。